落伍者の日記

ただの詭弁です。

私的推薦図書十選

 

 

私的なブックレビューをとても雑にしていきます。

 王道よりも、ちょっと掘り出し物的なところを幅広く攻めていこうと思います。

 

 

 

南木佳士冬物語

冬物語

冬物語

 

 芥川賞作家でありながら医者でもあり、鬱病を乗り越えた南木さんの紡ぐ文章からは一言でいうと、とても静かでです。背伸びせず、自身の体で得た経験を落ち着いていて飾らない言葉で表現し、それを物語のなかに自然に溶け込ませます。

小説的な気取った誇張の胡散臭さみたいなものを感じさせる文章が全くありません。

 

 例えば、

 

「月が綺麗だ」私は心の中で呟き、そっと瞳を閉じた。瞼の裏に、もう隣にはいない彼女の後ろ姿が浮かんだ。涙がこぼれた。

 

的な文章があったとします。「月が綺麗だ」とか、そういう言葉であっても違和感や胡散臭くもなく文章に溶け込ませる事ができているのならばなんら問題ないですし、それが小説家の技量を図る一要素とも言えるかもしれませんが、実際のところそういった肉体の経験から離れた言葉(もしくは読者の目にそう写ってしまっている言葉)によって小説が陳腐なものに感じられてしまうことってないでしょうか。

 

小説に対してそんな感覚を持ったことがある人は是非「冬物語」を。とても読みやすく、尚且つ南木佳士さんの魅力がつまった短編集となっております。

ちなみに劇的なストーリー展開も伏線回収もほとんどありません。それでも、いや、それ故といった方が正しいのか、物語を読み終えて本を閉じた時、あなたの胸は静かで暖かくずっしりとした読後感に満たされていることでしょう。

確か絶版になっていたと思うのでお買い求めはAmazonで。

 

綿矢りさ蹴りたい背中

蹴りたい背中 (河出文庫)

蹴りたい背中 (河出文庫)

 

 女子高生の恋愛物語とか絶対つまんないだろ。そう思って綿矢りささんの小説はずっと読まず嫌いでした。

一応芥川賞受賞作と言うことで大学生になってから初めて読んだのですが、悶絶しました。史上最年少芥川賞受賞作家の名は伊達じゃありません。舐めていてほんとうにすいませんでした。

 

苦い記憶、心の絶対に触れられたくない柔らかい部分を超的確かつ容赦なくつまようじでぶっ刺してくる感じの小説です。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、もうやめてください」

小田急新百合ヶ丘駅前のDOUTORで初めてこの小説を読んだとき、人目も憚らず、もとい、ちょっと憚りながら悶絶して机に突っ伏し、同時に薄ら笑いを浮かべながら心の中でそんなことを呟いていた記憶があります。

それでもページをめくる手がとまりません。

あまりハードルを上げるのはよくありませんが、この小説にはそれだけマゾヒスティックな快感があります。

 それからポップな文体で書かれているのでとても読みやすいです。

 

太宰治「東京八景」

 太宰と言えば「人間失格」が有名ですが、「東京八景」も負けていません。

人間失格」同様一人称で書かれ、また太宰治本人の人生と重なる部分が多い自伝的小説です。「走れメロス」など前向きな作品を多く残した三鷹時代に書かれた作品であり、この物語に込められたメッセージもやはり前向きなものとなっております。

人のプライドの究極の立脚点は、あれにもこれにも死ぬほど苦しんだことがあります、そう言い切れる自覚ではないか。

この一説は有名ですね。

サブタイトルにある通り、苦難の或人に送る太宰治からの強く優しいメッセージです。

 

本人は結局自殺してしまうのですが、、、

 

 

④螢川・泥の川

蛍川・泥の河 (新潮文庫)

蛍川・泥の河 (新潮文庫)

 

 ああなんだかとても懐かしい。そんな小説てす。なんと言うか、言葉の世界にセピア色の情景が浮かび上がります。

 

 

 

ヘルマン・ヘッセデミアン

デミアン (新潮文庫)

デミアン (新潮文庫)

 

ヘルマン・ヘッセは 「車輪の下」が有名ですが、私は断然「デミアン」派です。

明るい世界と暗い世界の間で揺れる少年のお話なのですが、きっと共感できる人も多いはず。

そんな人とは是非一緒にお酒でも飲みたいものです。

 

 

井上靖氷壁

氷壁 (新潮文庫)

氷壁 (新潮文庫)

 

 テーマとしてはちょっとカッコつけていうと「理性と本能の相克」とでも言いましょうか。よくあるやつです。

恋人、家族は大切だけど、欲に負けて浮気してしまうみたいな。

ただ「氷壁」はそういった小説定番の禁断の恋を描きながらも一方で、厳しい冬山に挑むクライマーが主人公であり、登山における「理性と本能の相克」を同時に描きます。

つまり

 

「コンディションは最悪。引き返すべきだ。けれどもう山頂は目の前に。いけるんじゃないか。のぼりたい。いやだめだ。」

 と

「彼には奥さんと子供が。帰るべきよ。けれどもう目の前に彼のマウンテンが。ばれないんじゃないか。登りたい。いやだめよ。」

 

を一つの小説にしてしまったわけです。

推理小説などの要素もぶちこみながら、それでいて完成度が超絶高い。練りに練ったであろうストーリー、考え抜かれた構成、文体がそれぞれを最大限に引き出し合っています。

文句のつけようがありません。

ストーリーだけを楽しむ読書からの卒業に最適です。

氷壁」を読んで読書家ぶりましょう。

 

 

森見登美彦「新訳・走れメロス

 

太宰治の「走れメロス」、坂口安吾の「桜の森の満開の下」など過去の名作を現代京都を舞台に蘇らせた短編集なのですが、単純にめっちゃおもしろいです。たぶん活字が苦手な人でも楽しめると思います。原作を読んだことがなくても大丈夫です。

 森見登美彦さんの小説全般に言えることですが、小説を好きになるきっかけにもってこいだと思います。

 特にこの短編集はふざけきったものから真面目なものまで色んなテイストの作品が納められており、しかも過去の名作を読むきっかけにもなる。入門書としてこの上無い仕上がりになっております。

 

 

曽野綾子「仮の宿」

仮の宿 (PHP文庫)

仮の宿 (PHP文庫)

 

 小説ではなくエッセイ集てす。

色んなエッセイが納められているので一言で内容を説明することは難しいのですが、非常に読みやすく、面白く、かといって眠れなくなるほど引き込まれる訳でもない。短いエッセイが集まっているので区切りもつけやすい。

枕元に置いておくのに最適の一冊です。

 

 

中島義道「孤独について」

 

孤独について―生きるのが困難な人々へ (文春文庫)

孤独について―生きるのが困難な人々へ (文春文庫)

 

 

我らがひねくれもの代表、中島義道さんのエッセイ集です。

 

これはあくまで私のようなわがまま小心ひねくれクソヤロウのお薦めであり、健全な人は読まない方がいいかもしれません。読むと拒絶反応をおこすか、人格がひねくれていきます。

 

 実際、中島義道さんの大学の授業では精神に異常をきたす生徒がでるそうです。

 

さあ、こちら側の世界へ。

 

生きるのも死ぬのもイヤなきみへ (角川文庫)

生きるのも死ぬのもイヤなきみへ (角川文庫)

 

いかにもメンヘラなタイトルの本を間違って張ってしまいました。消し方がわかりません。

 

 

 

 

 

 

坂口安吾堕落論

堕落論 (角川文庫)

堕落論 (角川文庫)

 

 もうこの本を、坂口安吾を紹介したいがためにこんな需要のないブログをここまで書いてきたと言っても過言ではありません。「堕落論」最高です。半端ないです。私のバイブルです。学生時代はいつもリュックの底に入れて持ち歩いてました。大学の事務に退学届けを提出する直前にも読み返していました。

一番のおすすめです。

堕落と言うとぐうたら寝てろくに働きもしないダメなやつを想像するかと思いますが、坂口安吾が説く堕落は世間一般のそれとは少し違います。また一生涯堕落した生活を送り続けることを勧めたわけでもありません。

語り出すととんでもなく長くなるので、内容は是非ご自身でお確かめください。

先程紹介した中島義道さんの「孤独について」と重なる部分があります。

ちなみに南木佳士さんも「堕落論」の愛読者です。

「続堕落論」も素晴らしいのであわせてどうぞ。

 

 

あと友人である太宰治の死後に書かれた「不良少年とキリスト」もいいです。

「大阪の反逆」も「青春論」も「恋愛論」も「日本文化私観」もいいです。

小説だと「私は海を抱きしめていたい」とかいいですね。無論「桜の森の満開の下」の妖艶な魅力は言うまでもありません。

「風と光と二十の私と」「恋をしに行く」「白痴」ああああ~全部いい~。